六条御息所2006/08/08 11:44

我が身より 迷い出づるか悪しき鬼

           震える頬に 赤き月の射す


なぜか私の中では真夏のイメージなんです、六条御息所。
生霊になってさ迷う姿が、夏の怪談話にぴったりのせいかも
しれませんが(^^;
知性と教養にあふれる美貌の女性・・・
弾けるようにまぶしい夏のイメージからは一見遠そうですが
冷静な表の顔に隠された、狂おしいほどの情熱や嫉妬心は
そのまま寝苦しい熱帯夜と重なります。

今で言えば、まさにセレブな女性。優雅に美しく暮らしていた
はずの御息所。でも心のどこかに満たされないものがあった
のでしょうね。
好奇心から近づいてきた源氏の君の恋の駆け引きに、いとも
たやすく乗ってしまう。
そして、そこから六条御息所の苦しみは始まります。
肝心の源氏の君は、すでに我が手に落ちた年上の恋人を
重く感じ始めていると言うのに。

若く身勝手な源氏の君、そして恋に溺れ自分を見失って行く
六条御息所。
若さと言う無敵の武器から、徐々に遠ざかりつつある女性には
他人事と思えぬところもあるのかも(^^;
あれほど知的で優雅だった御息所が、我と我が身を追い詰め、
魂がさ迷い出るほどの執念にとりつかれるなんて・・・

その姿の不器用なほどの哀しさゆえか、はたまたそれほどまで
誰かを愛せることへの賞賛からか、「源氏物語」を読んだ女性の
中には、六条御息所が好きとおっしゃる方も多いようです。
さすがに男性ファンは少ない、のかな(^^;

朧月夜の君2006/03/31 09:00

夢宵の名残の扇 君の手に

         月影宿る 道を示せと


朧月夜の君、意外と女性に人気があるようです。
初々しくも情熱的で、しかもただ流されるだけの弱い女性ではない。
しっかりした意志を持った姫君なのですね。

確かに出会いにおいては、源氏の君の一方的な拉致(?)のようなもの(^^;
それでも、決してはしたなく騒いだりせず・・・高貴な姫ですから(笑)
と同時に、朧月夜の君には相手が誰か、見当がついたでしょうし。
この人なら、と覚悟を決めたのかもしれません。
名前を教えてほしいと言う源氏の君に対しても、「名前を明かさないまま
死んでしまったら、草の原までは訪ねて下さらないのかしら」などと
なんとも心憎い答え様。
これは、なかなか手強いぞ、と源氏の君に思わせたのかな(笑)
別れ際にお互いの扇を取り替える、と言うのはステキ。

桜が満開になるこの季節、まさに花の宴にふさわしい、あでやかな
女性ですね。

源氏の君2006/03/09 23:38

清らなる 深山の春に咲き初むる

           花に惹かれし 心はいかに


源氏の君と女性たちとの出会いは、どれもとても美しく描かれています。
たいていの場合、会っていきなり恋に落ちる、と言うパターンが多いよう
ですが(^^;
中でも、若紫との出会いのシーンは、山の清浄な空気まで感じられて
印象に残っています。

ふと見かけた少女のあまりの愛らしさに、思わず足を止めてしまう源氏の君。
けれど、そのあどけない少女に、どこか藤壺の宮に似ている面差しを見て
いたのですね。
結局のところ、源氏の君の心のうちは、常に叶わぬ恋の相手である藤壺
の宮が占めている。
面影の似ている少女を引き取って、側で育てられたらと言う夢も、男の
エゴであると言えるかも・・・

どうも、源氏の君にはついつい辛い評価をしてしまいがちな私ですが(^^;
それでも、この若紫との出会いは、どことなくほほえましく思えてしまったり
するのです。

紫の上2006/01/28 18:19

人を恋ふ こころはかほど重きかな

           蝶にもなれず 鳥にもなれず


源氏物語の中には、美しくも哀しい女性が大勢登場します。
紫の上は、源氏の君と一番長く共にいる女性。
どちらかと言うと幸せな女性のうちに入るのだろう、と昔は
思ったものでしたが。
最近は逆に、一番哀しい女性だったのかも、と・・・

幼い頃に源氏の君の邸に連れてこられ、何もわからぬうちに
自らの道を決められてしまった。
優しくて頼りになる、いつも一緒にいてくれるお兄さん、と
信じ込んでいた幼い少女の心のままの紫の上に、源氏の君は
いきなり妻となることの現実を突きつけます。
いかに紫の上がショックを受けたかは、原作からも窺えますが(^^;

そんな思いをも超え、ようやく大人の女性として源氏の君を愛する
ようになってきた矢先、源氏の君は須磨へ流されます。
どんなについて行きたくとも、かなわない。
一人けなげに留守を守る紫の上、翼があったら飛んで行きたい、と
思ったのではないでしょうか。

この短歌のもととなったイラストを、サイト「銀の鏡」の伊那さんが
すばらしく美しく描いて下さいました。
「翠蓮茶寮」のギャラリーのコーナーにページがありますので
ご覧頂ければ幸いですm(__)m

伊那さんのサイト「銀の鏡」はこちらから
http://inabausa.s81.xrea.com/

「翠蓮茶寮」はこちらから
http://www.ne.jp/asahi/ryo/p/suiren.htm

明石の君2006/01/09 17:30

君待ちて 飽かず眺むる冬の庭

      波の代わりに 雪の音を聞き



「源氏物語」の中で、様々な恋の遍歴の後、ついに源氏の君は
六条院に自分と係わりのあった女性たちを集めて住まわせます。
春夏秋冬の趣きを持つそれぞれの館ごとに、そこに似合う女性を
住まわせると言う、なんとも華やかなこと・・・

冬の館に住むことになったのは、明石の君でした。
生まれたばかりの娘を、紫の上に育てさせるからと源氏の君に
取り上げられ、嘆きの淵にあったであろう明石の君。
最初は、京に上っても源氏の君の邸とは離れた大堰川の近くに
住んでいましたが、六条院に移ることを承知したのは、やはり
手離した娘が気にかかったからなのでしょうか。

お正月の衣装を、それぞれの女性たちに贈った源氏の君ですが、
明石の君が高貴でエキゾチックなその衣装を、あまりにも見事に
着こなし、さらに部屋も衣装に合わせた唐風の趣向にしていたので
ついに新年の最初の日を、明石の君のもとで過ごしてしまいます。
明石の君の演出の勝利、と言うところですね(笑)

控えめでいながら、自分の魅力の見せ方をしっかり知っていたので
あろう明石の君。
けれど、なつかしい明石の浦を離れ、娘とも離されて・・・
哀しさや心細さに、じっと耐えていたはず。
明石の海の波の音も聞こえない冬の館で、ひとり何を思っていた
のでしょう。