暗き森 -安倍晴明-2011/06/29 16:24


森には
多くのささやきが満ちている


ところ狭しと
広げられた枝


青々と光を透かし
または遮ってみせる
豊かなる葉


湿り気を帯びた
道なき道


ここに住まうのは
木々の精たちだけか


それとも


抗えぬ定めに導かれ
迷い込み
抜け出せなくなった
哀しい者たちの魂が


いまだ
この薄闇の森に
彷徨い続けているのだろうか


ひそひそと
しみじみと


ささやきは耳に
流れ込む


助けが必要か?


ならば
我が唱える呪に
その身を任せ


この閉ざされた森の
もっともっと上


高く遠い空へと
思いを飛ばすがいい


そこにこそ
お前たちの憩う場所が
在るのだから


この森は
眠るには
寂しすぎる


(イメージポエム、安倍晴明)

紫陽花 -間人皇女-2011/06/12 00:41


望む色に
咲くとは限らない


雨が似合う
この花は


ひんやりと
水の色


物憂げな
溜息の色


胸深く沈む
紅の色


薄雲の下
どこかよそよそしく


まるで
心の在り処を
雨のとばりに隠すよう


誰にも
わかりはしない


誰にも
気付かれてはならない


貴方のため


ただ
そのためだけに


どんな雨にも耐え
想いを秘めて


淡く微笑む如く
咲き続けていることを



(イメージポエム 間人皇女)

藤 -源博雅-2011/05/06 15:34


今年もまた
藤の花が
美しい時期が来る


さわさわと
風に揺れるたおやかさ


奥ゆかしくも
あでやかな色合い


花の姿そのままに
佇むかの人は


何を思い
何を憂うのだろう


ただ無心に
咲いては散る


巡る時の中で
蘇りを繰り返す花よりも


様々な
厄介事に巻き込まれる


そんな人としての生を
良しとしているだろうか


そうであっってほしい


今のままの姿で
静かに微笑んでいてほしい


それだけを
ひそかに願ってしまう


藤の花の時期は
なおさら



(イメージポエム、源博雅)

白木蓮 -斎藤一-2011/03/21 23:08

あれから
幾度 春が巡ったのだろう


熱き志しを貫いた者たちの多くは
すでに
年を重ねることもない


もしかしたら
あの頃のまま


どこかで
剣を振っているのかもしれない


時代の流れなど
意にも介さず


皆で笑いながら
奔り続けているのかもしれない


ふと
そんな妄想に捕らわれる


なつかしんでいるのか
それとも


悔いているのだろうか
生き延びてしまったことを


たとえ
形が変わったとしても


武士としての居ずまいは
胸の内で正したまま


自分に与えられた役目を
ただ全うする


それもまた
己が運命なのかもしれない


今年も
木蓮の樹々が白い花をつける


まるで
あの頃の我等のように


天を目指し
誇らしげな様子で


振り返るのは
ひとときだけ


友の生き様に恥じぬよう
背を張って


新しい春へと
歩みを運ぶこととしよう



(イメージポエム、斎藤一)

龍 -諸葛亮-2011/02/23 16:55


凍てつく冬の向こうに
光の春が
必ず来ると信じるなら


人は
ただ無心に
耐えることができるのだろう


いつしか
不毛な日々に慣れ


ゆるゆると
虚ろな時を重ね


それでも


あきらめることを
良しとせず


道を示す兆しを
探し続けたなら


季節は
前へと進んでいくのだと


誰よりも
己自身に言い聞かせ


世の動きを
みつめ続けた


今まさに
雲間より光射し


待ち焦がれた春は
巡らんとす


目覚めよ
私の中の龍


蓄えた力のすべて
この胸に携えて


果てなき空へと
翔け行かん


(イメージポエム・諸葛亮)